コラム/エッセイ
納得して抗がん剤治療を受けていただくために
~薬学専門家からの提案~
Understanding your therapy for good treatmen.
Vol.04
叔母が行った副作用対策
私の叔母は、8年ほど前、悪性リンパ腫(マントル細胞リンパ腫)と診断され、某大学病院で、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチンとプレドニン併用のCHOP療法という強い抗がん剤治療を受けました。
1.大学病院での副作用対策
その化学療法の副作用として、吐き気や嘔吐、白血球減少や脱毛もみられたのですが、同時に、口の中の粘膜が「べろべろ」に荒れるほどの口内炎と、だるさ(倦怠感)が強く認められたようです。
この大学病院では、患者への副作用対策の指導が行き届き、担当の看護師の方が、叔母に「口内炎があると感染を引き起こすことがあるから、歯磨きやうがいをするように」と指導したそうです。叔母は、「水を含んでも痛いのに、歯磨きなんてできない」と思ったそうです。しかし、看護師の方が勧めるのだからと思い直して、1日5回歯磨きをし、ことあるごとに、うがいをしたそうです。
また、化学療法によるだるさ(倦怠感)に対しては、看護師の方から「運動すると少し楽になるよ」と言われたので、個室で「テントウ虫のサンバ」を口ずさみながら、足踏みしたそうです。叔母に適切な副作用対策を指導した看護師も「すごい」と思いますが、看護師の方を信頼して、痛い歯磨きを1日5回励行し、だるさの中で一人で足踏みの運動を実践した叔母も「すごい」と思っています。
その後、リツキシマブ(商品名リツキサン)が発売されたので、CHOP療法にリツキシマブを併用するR-CHOP療法を数か月ごとに行っていたようですが、看護師の方が指導した副作用対策を守ったために、重症となる副作用を経験することなく、化学療法にも耐えられたようです。
2.地方の公立病院での抗がん剤治療
残った悪性リンパ腫がごくわずかになったために、叔母が住んでいる地方の公立病院でリツキシマブだけの投与を定期的に行う治療に切り替え、年に1回だけ、その大学病院を受診することになりました。
リツキシマブの投与を受けるために、その公立病院に入院したとき、同室の方が、インフルエンザの患者さんだったことがあったらしいのです。インフルエンザの患者さんと聞いて、叔母は大丈夫かなと思ったようですが、案の定、深刻なインフルエンザに罹り、死を意識するほど大変な思いをしたようです。リツキシマブも十分な感染症対策が必要となる薬ですが、よりによって感染症対策が必要な患者とインフルエンザの患者を同室にするとは、信じられませんでした。リツキシマブのことを知らなくても、がん患者は感染予防をするということは、常識であると思うのですが…。
幸い、叔母はインフルエンザから回復し、元気に退院することができました。叔母のように、がん治療がうまく行ったとしても、この地方の病院のような対応では、命にかかわるような感染症を合併する危険性があることを再認識しました。現状では、非常に残念なことですが、がんの患者さんが入院する場合には、同室に感染症の患者さんがいないかどうかを確かめることが必要なのかもしれません。
3.患者さんの参加で、よりよいがん医療に
マントル細胞リンパ腫に対する治療効果はあまり良くないと知られていたのですが、CHOP療法、そしてその後のR-CHOP療法が効果を示し、診断後8年になりますが、叔母は再発もなく元気で生活をしています。
もし、つらい副作用が出現したとき、看護師の方が、叔母に副作用対策を指導せずに、また、叔母が、看護師の方が指導した副作用対策を行っていなければ、副作用に耐えられずCHOP療法やR-CHOP療法を断念せざるを得なかったかもしれません。それらの治療を断念していれば、いまのような生活はできなかったのかもしれません。
叔母の例は、医師や看護師の方を信頼して、自らが副作用対策を実践することで、よりよい治療効果が得られる可能性があるという典型例です。そしてまた、医師、看護師、薬剤師という医療専門職だけでなく、患者さんが参加することで、よりよいがん医療にすることができるという実例でもあると思います。
がん医療をより質の高いものにするためには、患者さんが、がん医療に参加することが必要と思いますが、皆さんはどのように考えますでしょうか。
※執筆者の瀬戸山氏が運営する爽秋会クリニカルサイエンス研究所では、一般向けと医療関係者向けに、がん医療に関する情報を提供しています。こちらのサイトもご利用下さい。
(2008年5月執筆)