コラム/エッセイ

納得して抗がん剤治療を受けていただくために
~薬学専門家からの提案~

Understanding your therapy for good treatmen.

Vol.06

検査値は記録して、変化を確認しましょう!

1.基準値は、必ずしも自分にとっての正常値ではありません

健康診断や治療中に血液検査をしたときに、「正常値だ!」「異常値だ!」と一喜一憂することはありませんか?

血液検査に関して正常・異常という言葉を使うことが多いと思いますが、「正常値」という用語は好ましくないので、現在では使用されず、「基準値」と呼ぶように決められています。しかし、いまだに「正常値」といっている、医師などの医療専門職が多いかもしれません。

基準値は、その病院で使用している測定機器や検査方法によっても多少異なります。そして、その方法で測定した場合に「正常な人の95%が当てはまる値」を基準値と決めています。言い換えますと、正常な人の5%が基準値からはずれることになります。

たとえば、白血球数は3,500~8,000/μL(マイクロリットル)が基準値と考えられ、それより多ければ感染症や白血球の異常増加の病気が疑われることがあります。私の場合は、10年以上も白血球数が15,000~18,000/μLですので、この考えでは異常となります。そのため、健康診断のときに、医師に「白血病の疑い」と診断されてしまいます。しかし、この10年、一度も白血病と診断されていません。言い換えれば、私は、白血球数が15,000~18,000/μL であっても異常ではないのです。しかし、白血球数が4,000/μL近くまで減ったり、30,000/μL近くまで増加した場合には、何らかの変化があると考えられますので、「私にとっての異常値」になる可能性があり、精査が必要になります。

すなわち、検査値が基準値内にあるということも重要かもしれませんが、検査値がどのように変化しているのかということがより重要になると思います。

皆さんが、具合が悪いときでも、担当医の方から「正常値だから問題ありません」と言われることがあるかもしれません。患者さんの検査値の変化を考慮して「正常」と判断するのなら問題はありませんが、基準値だけを意識して、「正常」と判断することは正しいとは言えないかもしれません。

「正常な人の95%が当てはまる値」である基準値だけを意識していては、患者さんの異常には気づかないことがありますので、検査値の変化を考慮して判断することが重要なのです。

2.検査値の変化を知ることは、よりよい治療につながります

正常値は個人個人によって変わりますので、「検査の基準値(正常値)」はあくまでも一般的な目安であると考えることが必要です。そのため、ご自分の正常値を知るには、血液検査した結果を教えてもらい(またはコピーをもらい)、グラフにしてみるとよいと思います。グラフにすることによって、ご自身の検査値の動きがわかりますし、お身体の具合と照らし合わせながら、「検査値がこのような値になったときには、このような症状が出る」などと考えることができます。

がん胎児性抗原(CEA:CarcinoEmbryonic Antigen)という腫瘍マーカーがあります。ある種のがんでは再発の指標に使用することがあります。私がお付き合いさせていただいた膵臓がんの患者さんは、そのCEAの値を自らグラフ化して、CEA値が徐々に増加していることに気がつき、担当医に「再発ではないか」と申し出て、検査してもらった結果、再発を見つけることができました。

また、別の肺がんの患者さんも、白血球数やCEAなどの検査値を、パソコンに入力して、それらの検査値の経過とCTやPETの測定結果を担当医と一緒に確認しながら、治療法を決めていました。

このように検査値の変化を知ることで、再発や増悪を早く見つけることができるかもしれませんし、白血球減少、肝機能異常や腎機能異常などの副作用の発見も早くできる可能性があります。再発や増悪を早く知ることができれば、治療の変更も早くできますので、よりよい効果が得られる可能性があります。また、副作用を早く見つけることができれば、重症になる前に副作用対策が可能になりますので、よりよい療養生活が送られる可能性も高くなると思います。

3.がん医療に患者さんが参加し、よりよいものにするために

医師の中には患者さんに余計な心配をかけさせたくないという配慮から、「前と同じだから心配ないよ」と言うこともあります。そのような場合でも、検査を受けた場合には必ずその検査結果を教えてもらい、そのコピーをもらうことが必要です。そして、ご自身の検査結果をグラフにしてみて、ご自身の検査値の変化を確認することが大切と思います。ご自身の検査値の変化をご自身で把握し、異常が認められたら担当医に相談するということは、患者さんが、がん医療に参加することにもなります。

検査値の経過を知ることにより、抗がん剤治療や放射線治療で、検査値にどのような変化があるのかを理解できます(ただし、検査値の経過は、使用する抗がん剤によって異なるかもしれません)。そして、ご自身の正常値を超え、検査値が変化しはじめたら要注意ですので、担当医と相談することをお勧めします。

検査値をグラフ化して、がん医療に参加することにより、皆さんのがん医療をよりよいものにしてみませんか。皆さんが参加することで、がん医療はもっとよりよいものになると思います。

※執筆者の瀬戸山氏が運営する爽秋会クリニカルサイエンス研究所では、一般向けと医療関係者向けに、がん医療に関する情報を提供しています。こちらのサイトもご利用下さい。

(2008年7月執筆)

瀬戸山 修
瀬戸山 修
1949年生まれ、爽秋会クリニカルサイエンス研究所代表。がんの初期から終末期までの一貫したがん医療の質の向上を願い、薬学、特にがん薬物療法に関する臨床薬理学、臨床疫学(EBM)の立場から、最新のがん医療情報の発信、薬剤師や看護師の教育研修を行っている。